サッカーファンでなくても、このエッセイは面白かった。熊崎さんが本当にサッカーが好きで、サッカー選手やサッカーファンを温かい視線で見ている姿がうかがえて、読んでいて楽しかった。特に外国のサッカーファンの思い入れは、熱心だからこそのユーモア溢れるシーンとなり、大いに笑えた。
最終回となってしまったその内容は、カズこと三浦和良選手への感謝の文となっている。最初の頃、カズのことが大嫌いだったという熊崎さん。当時、ワールドカップとは、日本代表が立てるような場所ではなく、むしろそれくらい神聖なものに感じていた。だから「違うよ。ワールドカップは出なきゃダメなんだ!」と言い放ったカズに、反感を持ったようだ。また、チャラチャラして振る舞いも気に入らなかった。ところが、やがてサッカーをまったく知らなかった人たちまでを巻き込んでいく。
カズは正しかったのだ。
その布教活動が薄っぺらく見えたのは、それが世間を巻き込むうえでもっとも効果があることを彼が知っていたからだ。それは世界一サッカーが大衆に沁みこんだ国、ブラジルで属った男だけができる発想と芸当だった。
今、熊崎さんは思う。カズのおかげで日本のサッカーは光輝いたと。そして日本代表がワールドカップに出場できるようになり、Jリーガーがもてはやされるようにもなった。選手はみな感謝しなきゃいけないと。そして熊崎さん自身も、サッカーが光を浴びたからこそ、今の仕事が出来ていることを感謝している。
本音をいえば、引退するときにカズにお礼をいいたかったけれど、僕の方が先にお役ご免になってしまった。伝道者としての重責から解き放たれたカズはいま、少年のように心からサッカーを楽しんでいる。あんな生き方、できたらいいな。
最後は「あんな生き方、できたらいいな」と締めくくっている。きっと、好きなことに打ち込めて、楽しめる、そういう生き方がうらやましいのだろう。熊崎さんは、今、本当に自分のやりたい事を思い切りさせてもらえてないのかもしれない。ワールドカップの頃には、きっと熊崎さんらしい人間味溢れるレポートがたくさん読めると期待していた。だから、なぜ今この連載が終ってしまうのか、全然わからない。本当に今からなのに…。
