2008年03月09日

己のセンスを信じて

 誰に命令されるでもなく損得でもなくブログを書いている人は、言葉で自己表現をしたいタイプの人だろう。本人としては、書きたいから書いているだけなのだが、書くことによって自分の心を見つめなおし、発散し、結果的にそれが自分を支えている。

 今感じている、考えていることを「言葉」という形でアウトプットする、と同時に目からフィードバックされ、自分の存在を確認できて快感になるのか、ん〜、難しい理屈はわからないけれど、書けなくなったら自分を見失ってしまうことは確かなのだ。

 書き手のプロである小説家が小説を書けなくなったら、どんなに苦しいだろう。職業としてだけでなく、人間として行き詰ってしまうのではないだろうか。支えるものがなくなってしまうのだから。

 中村うさぎさんが、「小説が書けなくなってしまった」と【週刊文春2008年3月6日号】の「さすらいの女王」で嘆いておられた。エッセイは書けても小説が書けなくなっていたのだ。

 そして翌号の3月13日号で、やっと元気を取り戻しつつある様子がうかがえる。桜庭一樹さんが直木賞を受賞したニュースがきっかけだった。桜庭さんのデビュー時に、その実力を認め一押ししたのが中村うさぎさんだったのだ。彼女の作品を評価しなかった人たちに対して勝ち誇った気持ちになった。

 そしてこんな風に生き生きと書いている。(注:女王様=中村うさぎさん)

 女王様は誇りに思わずにいられないのだ。それは自分の鑑識眼というよりも、自分が「これはいい!」と思ったものが間違ってなかったという、要するに己のセンスに対する肯定感だ。

 だって、私がいいと思うものが世間に認められたってことは、これから先、私は自分がいいと思うものを書き続けても大丈夫、ということだもんね。もちろん、うまく書けるかどうかわからないけど、少なくとも核になる部分……テーマというか。作品の「魂」みたいなものを、大きく誤ることはないように思えてきたの。よかった、私は間違ってなかった、自分のセンスを信じて大丈夫なんだ、という気持ちね。


「己のセンスに対する肯定感」、ああ、とってもよくわかる。それがあれば、人は元気に生きていける。

「小説とエッセイでは使う脳ミソの部位が全然違う」というのは、うさぎさんのセリフだけど、エッセイを書いていられただけでも、まだ本当のどん底ではなかったと思う。いや、それは素人の考えか。

 さて、あなたにとっての自己表現は何ですか? 美しいとか、面白いとか、苦しいなどと感じた時、どうしてますか? 文章を書きたいですか、曲を作りたいですか、歌を歌いたいですか、絵を描きたいですか、何か作りたくなりますか、誰かにしゃべりたくなりますか。

 どんなに辛いときでも、表現できているうちは大丈夫…。とても幸せなこと。一人でも認めてくれる人がいたら、なおさら幸せ。
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2008年01月27日

しゃれた四股名

 きょうは大相撲初場所の千秋楽ですね。横綱対決で盛り上がっているようですが、さてさて優勝は紅か白か、じゃなくて、青か白か。

 さて、昔の力士にこんな変わった四股名(しこな)があったとか。『オール読物』(2月号)の「ちょっといい話」(山川静夫)から引用したものですが、すぐにわかりますか?

(1)「子」 → えとがしら

(2)「一」 → かずはじめ

(3)「九」 → いちじく


 謎かけみたいですね。ふふふ。
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2008年01月26日

宝物か散財か

 根拠はないが、徹底したコレクターになるのは男性の方が多いのではないだろうか。鑑定番組などで何度となく見たのは、ご主人が骨董品などを収集しているのを奥さんが苦々しく思っているというケース。逆のケースは少ないように思うのだが、どんなものだろう。

 月刊誌『オール読物』(2月号)の「ああ、大散財!」というページに、辻村深月さん(作家)が映画のチラシを夢中で集めた話を書いている。

 一人暮らしをしていた学生時代、映画好きもあって映画のチラシを買い集めていた。一枚50〜200円程度のものだが、プレミアのついた数千円のものまで買うようになり、そのために費やした金額は数十万円にもなってしまった。しかし、充足感に満たされ、誇らしくもあり、楽しかったそうだ。

 それらを収めた宝物ファイルを持って実家に帰ったとき、映画好きの父親から長年集めた映画チラシのコレクションを見せられる。それらは娘の集めたものをほぼ網羅し、今では手に入らないものまでもあった。しかもお金で買ったものではなく、近所の映画館のスタンプマークが押されているものばかりだった。そもそも辻村さんの映画好きはお父様の影響だったのだ。そしてこう書かれている。


 つまり、私のコレクター気質もまた父譲りだった。映画チラシは五十音順に丁寧に棚に収められていた。ファイルでは場所を取ってしまって追いつかないのだ。私はそこに道を究める者の何たるかを見た思いがして、そして打ちひしがれた。到底かなわない、と思い知った。


 辻村さんの中で、「宝物」が「散財した結果」に変わった瞬間だった。私にもそのときの急に熱が冷めていく感覚がよくわかる。本物のコレクターを見ると、「かなわん…」と思う。自分はあそこまでできないと。何度かそんなことがあったような気がする。だから何も収集していない。それが一番安心なのだ。
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2008年01月20日

美男論

 『文藝春秋』(二月特別号)に「読者投票による 昭和の美男ベスト50」という特集があった。読者8077人の投票によるランキングは次の通り。

1. 長谷川一夫
2. 上原謙
3. 石原裕次郎
4. 市川雷蔵
5. 加山雄三
6. 白洲次郎
7. 高倉健
8. 三船敏郎
9. 佐田啓二
10. 長嶋茂雄

11. 鶴田浩二
12. 吉田茂
13. 石原慎太郎
14. 佐藤栄作
15. 大川橋蔵
16. 池辺良
17. 田宮二郎
18. 沢田研二
19. 王貞治
20. 高橋英樹

(以下略) 

 昭和といっても64年間もあったので、世代によっては顔が浮かばない人もいることでしょう(ちなみに木村拓哉は21位)。特集記事ではアンケート結果だけでなく、各界の著名人22人がそれぞれ美男を推薦している。たとえば久田恵さん(作家)は、次のような定義で鶴田浩二を美男としている。


「美女」は分かりやすいが、「美男」はどうもねえ。なにしろ、私の基準は、顔ではなく、背中のあたりに漂う哀愁とか、傾いた肩のさびしそうな角度とか、声の渋さ、暗さ、ちょっとすねた感じとか。なによりもかもしだす雰囲気にこそあるからだ。


 ほかにも美男の条件として、「顔の造作を言うのではない」として、滲み出る雰囲気、表情、身のこなしなどを挙げる人が多かった。

 今は芸能人がそういったイメージを保ちづらい時代になりました。ニヒルな役をやってもバラエティ番組に出てしまったり、素顔を暴露されてしまったり…。むしろ三枚目的な要素を持っている人や個性的な人が魅力的だと見られ、「美男」は時代によって変わってきている。

 まあ、それはそれでいいんじゃないだろうか。そう思うのは、私が憂いのある二枚目に興味が無いからか。ただし、最近の「イケメン」という言葉は好きになれない。
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2008年01月14日

江戸人だった杉浦日向子さん

 漫画家であり江戸風俗研究家であった杉浦日向子さんは、NHK『コメディー お江戸でござる』の解説をほんとうに楽しそうになさっていた。私には、日向子さんが江戸時代からタイムスリップしてきたのではないかと思えてならなかった。江戸庶民のたくましく生き生きとした生活をみなさんに知らせるために……。

 『文藝春秋』(二月特別号)の特集「ドキュメント 見事な死 ―― 阿久悠から黒澤明なで著名人52人の最期」に、杉浦さんの名前も並んでいた。実兄のカメラマン鈴木雅也氏が語っている。とても仲の良かった兄妹だったことが伝わってきた。

 日向子さんはふだんからあの笑顔のままの方だったらしい。闘病中に書かれた文章についても、お兄様はこう見ている。
 

 人間は病の容れ物。何かしら病があるのが当たり前で、それと引き換えに生きている――。生老病死を春夏秋冬のように受け入れていた江戸人の死生観に、自分を重ねるような文章が目立ちました。


 肩の力が抜けるような死生観だなあ。でも、実際に病を得てしまったとき、人はどこまでそれを受け入れられるものだろうか。日向子さんは、生きることを最後まで楽しもうとしていた。すごい人。

 病室での様子も語られてる。


 最後の頃は筆談もできず、手で指し示して意志を伝えていましたが、本来の明るさを失わず、刹那を楽しむ流儀も忘れませんでした。

 永眠する五日前の早朝、つけっぱなしにしていた病室のテレビで落語が始まると、急に「見たい」と合図をよこしたんです。ベッドを起こすと、途中でウトウトしながらも最後まで見て、満足気な顔でまた眠りについて。

 ”お江戸の先生”と観る最後の演目が、江戸前じゃなくて上方落語になるとは思わなかったけれど、朝五時半の『蜘蛛駕籠(くもかご)』は、忘れられない一席になりました。


 杉浦日向子さんは、やっぱり江戸時代に戻って行ったんじゃないかな、駕籠に乗って……。早過ぎたけど。
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