ふだん、運動不足な人にとって、3キロ走ることになったら、かなりキツイでしょう。動かない職業の最たるもの、将棋や囲碁の棋士たちが、3キロマラソンをしたことが、将棋棋士、先崎学八段の「先ちゃんの浮いたり沈んだり」【週刊文春 3月30日号、4月6日号】で2週に渡って書かれている。
3月中旬の暖かい日曜日、マラソン大会(3キロの部)に出場する予定の先崎さんだったが、あいにく体調は最悪。前日に出席した結婚式で痛飲し、この朝、大いなる二日酔いで目覚めたのだ。しかし、自分に叱咤し、ふらふらのまま参加する。これは、棋士たちが数十人で走って、終ったあとにバーベキューをするという会なのだそうだ。先崎さんの奥様は囲碁の棋士。夫婦で参加する。
さて、最悪の体調でスタートした先崎さんは、それでも、どんなに苦しくても歩かないと決めていた。若手女流棋士(囲碁)たちや、奥様にも抜かれた。走っていて苦しくなったとき、普通、自分をどんな言葉で励ますものなのだろうか。先崎さんは…。
苦しくなると、頭の中で呪文を唱えた。「歩いたら負け、歩いたら負け」
道中は、ほとんどこの文句を頭の中で呟いていた。悲しい性(さが)というのか「絶対歩かない」ということばよりも「負け」ということばが入ったほうが気合が入るのだ。
さすが勝負師! それが功を奏したのか、奥様や若手の女流棋士たちをも抜き去る。
やっぱりねえ、と思った。若くとも、所詮は碁打ち、畳の部屋に座りつづけることを生業とする人種なのである。要は、三キロのレース全体の終ろのほうに、碁打ちがかたまって、抜いたり抜かれたりしながら、ヒーコラ走っているのだった。
先崎さん、だんだん言うことが大きくなってきましたねぇ。…へとへとになりながらもゴール。遅れること数分で奥様もゴール。
ゴールするなり、何やら妻は怒っている。
「こんな二日酔いに負けたかと思うと腹が立つやら情ないやら」
朝の私の醜態を知る者にとって、後塵を拝するのは屈辱だったようだ。
さすが、奥様も勝負師、”負ける”のは、か〜なり悔しいんですね。